プロテインキナーゼC(PKC)が平滑筋細胞周期をG_1後期で阻害するメカニズムを検討した。昨年報告したように、これをサイクリンの発現抑制だけで説明するのはもはや困難である。そこでCdk阻害蛋白p21およびp27の発現に対するPMAの効果を見たが、いずれに対しても明らかな効果はなかった。これはPKCがp21を誘導するとした最近のいくつかの報告と矛盾する結果だった。ただ、p21にアイソフォームが存在し、抗体によってはこれを認識できないことが最近示されており、PKCがCdk阻害蛋白を誘導する可能性もまだ捨てられない。 次にCdk2のリン酸化に対するPMAの効果を検討した。電気泳動度で検討すると、Thr160がリン酸化されたCdk2と考えられる泳動の遅いバンドへの移行がG_1後期から起こるが、PMAはこれを抑制した。一方、抗ホスホチロシン抗体で認識される泳動の速いバンドを増強する傾向が見られた。抗ホスホチロシン抗体で免疫沈降し抗Cdk2抗体でブロットしても、PMAはチロシンリン酸化Cdk2を増加させる傾向があった。すなわちPMAはThr160のリン酸化を抑制するか、チロシンの脱リン酸化を抑制するかにより、Cdk2を抑制する可能性が示された。ところで、c-MycがCdc25の転写を活性化することが最近報告された。そこでc-Myc発現に対するPMAの作用を検討したところ、G_1初期では一過性に発現を亢進させるが、G_1後期には逆に抑制した。したがって、PKCはc-Mycの発現抑制を介してCdc25を抑制し、これによってCdk2の脱リン酸化を抑制する可能性が考えられるが、この経路の証明にはさらに検討を要する。 本年度はさらに、PMAによる増殖抑制の生理的な意味を検討するため、生理的なPKC活性化物質ジアシルグリセロールを用いてPMAの作用が再現できるか検討した。ジアシルグリセロールは分解が速いため30分ごとに反復投写したところ、PMA同様にG_1後期を抑制し、pRbリン酸化抑制・Cdk2活性抑制などPMAと矛盾しない効果が観察された。したがって、PKCは生理的に細胞周期調節に関わっている可能性が十分あると考えられる。
|