歴史的研究に関しては、美術的著作物を扱う日本の伝統産業における権利意識や権利保護の仕組みについて、文献資料の収集と分析を通じて、解明作業が進んでいる。ここに見られる特性は、前近代の産業における同業組合的(「仲間法」的)規制が、権利関係の基本的調整機能を果たしてきた実態であり、明治以後における著作権法制(ならびに、工業所有権法制)の展開過程においても、とくに明治三二年法における国際的基準の導入までは、依然として強い影響力を発揮し続けていた事実である。したがって日本の著作権法制、とりわけ伝統産業と関わる分野におけるその形成過程の分析においては、前近代における業者間内部の自主的な法規制の構造の解明が鍵を握ると見なすことができる。 比較法的研究に関しては、わが国ならびに諸外国における判例の収集・調査とそのデータ・ベース化が順調に進行中である。これにもとづく紛争の類型化とその解決策のあり方の探求の作業も並行して進められている。著作権法と意匠法との交錯領域である応用美術の分野における両法制の機能不全というべき事態の存在の析出は、本研究の対象とする問題の本質の解明に資するものといえよう。 こうした著作権法制を原点から検証し直す作業の基礎の上に立って、現代のマルチメディアの発達にともなう著作権法制の未来像の検討作業を進めている。マルチメディアソフトの制作に既存の著作物を利用するケースにおける権利処理の問題は、当面において解決を求められている具体的問題の典型例であるが、ここでも単なる経済効率的アプローチにのみ依拠することなく、常に著作権保護の原点に立脚した解決と制度設計とが求められていることの確認がなされている。
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