本研究は、さまざまな摂食や生活様式を持つベントスの環境への影響をできる限り定量化する方法を探るのが目的である。現場海底の環境を実験室で再現するために、その目的に添った特殊な飼育水槽の開発を行なった。必要な水槽の条件は、現場から採集されたインタクトな状態の海底泥をそのまま水槽の中に収容できること、水槽の外から拡大型のビデオカメラで観察可能であること、流れや温度をコントロールで、モニターできること、などである。これらの条件は現在までの一般的な飼育水槽では、ほとんど不可能であった。そこで特殊な水槽を開発し製作した。 懸濁物食者の摂食量については、アサリについての視覚的データから推定するために、微細な点流速を測定できる熱線流速計を用い、さらに観察のためにミクロハイスコープのシステムを構築した。アサリの摂食は水中の餌粒子濃度だけではなく、表面を流れる海水の流速にも影響されるはずであるので、観察に際しては一定の流速を与える必要があり、1日程度の連続使用が可能なシステムを作り上げた。観察は合計160時間程行ない、点流速の測定値から摂食速度の推定を行なうことができた。今後より正確なデータにするためには、粒子自動測定器が必要になる。 堆積物食者のうち、管棲多毛類のタケフシゴカイの一種を用いて、拡大型ビデオによる排出行動と排出物の延べ50時間におよぶ長時間観察を行い、排出速度を推定した。堆積物食者の摂食量と排出量は多くの場合ほとんど同じと見なし、本種の体重と摂食量に正の相関がみられることが明らかになった。平均体重の一個体あたりの排出量は360mm^2/日であり、1m^2あたり100個体の本種が生息すると仮定すると、0.036mm^2/日の下層堆積物が本種によって攪乱され、海底表面に再堆積されると推定できた。今後できるだけ多くの多様な摂食様式を持つ種類について同様な研究を行なう予定である。
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