研究概要 |
無脊椎動物における微細藻類の体内共生系においては,生産者である微細藻と,消費者である動物が極めて緊密な関係を有している。このような共生系の確立によって生じる宿主と微細藻の間の関係を調べるためには,共生する微細藻の生理特性を十分理解しておくことが必要である。まず,ヒラムシ(扁形動物),リュウキュウアオイ(軟体動物),ハナヤサイサンゴ(腔腸動物)より単離された単離共生藻(渦鞭毛共生藻Symbiodiniumsp.)を用いて,以下の基礎的知見を得た。(1)人工海水(Marine Art SF,千寿製薬)にESMを添加した培地が単離状態での培養に適当であった。(2)生育時の至適温度は,30℃であり,5℃では生育しなかった。(3)光合成は,150μmol/m^2/s程度の光強度で飽和し,また,光補償点は通常の酸素濃度条件下では10μmol/m^2/sであったが,酸素濃度の上昇によって増大した。サンゴ生体における光合成の飽和光強度は400μmol/m^2/s,光補償点は175μmol/m^2/s程度であったことから,サンゴ生体においては,共生藻は,その光合成能力を十分に発揮していない可能性が示された。(4)光合成活性もpH6〜8域では大きな変化はなかったが,高pH域(9<)で著しく減少した。(5)パラオ共和国で実施した共生藻を有する原生動物Foraminiferaおよび造礁サンゴAnthozoa,および大型石灰藻Halimedaの光合成,呼吸活性および海水のpHの同時測定から,Foraminiferagaサンゴ礁におけるCO_2固定および蓄積により効果的な働きが出来ることを明らかにした。(6)サンゴ礁を含めて,海洋における光合成石灰化生物が,高い光合成能を維持している場合はCO_2sinkとして機能しうることを示した。(7)共生藻の代謝を生化学的に解析するために,HPLCによる可溶性蛋白質の分離,構造解析に関する技術開発を行った。
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