本研究は、黒潮域およびその周辺海域における原始緑藻類(原核緑藻類)の空間分布特性を明らかにし、培養株を用いて光量依存性などの基本的な増殖特性を明らかにすることを目的として行った。 原始緑藻類は黒潮域およびその沖合いで普遍的に出現した。分布には水温依存性があり18〜28℃で出現、最大密度域は21℃であった。鉛直的には極大分布を示し、成層形成初期には相対光量10%層付近に分布中心を持つが、成層化が進むと1%光量層付近と深くなり、クロロフィル極大層にほぼ一致するが、またはより深かった。原始緑藻類に特異的なディビニルクロロフィルa(chl a2)に対するクロロフェイルbの比は鉛直的に増加し、亜表層の弱い青色環境への適応と考えられた。chl a2は蛍光法で測定されるクロロフィルaの平均29%を占めており、本群は主要な一次生産者であったが、沿岸域や東シナ海陸棚域では痕跡程度にしか出現しなかった。また、親潮域には全く出現しなかった。原始緑藻類のサイズ画分には青色励起で赤色蛍光を発する細胞が10^3〜10^4細胞/lの桁で、原始緑藻以外にも多数混在したが、これらの藻類群の分類学的位置については今後の課題である。 原始緑藻類の増殖に対する至適光量は株によって大きく異なり、3株で53〜283μE/m^2/sで、比増殖速度は0.26〜0.66d^<-1>あった。増殖可能な光量域は4μE/m^2/sよりも低く、また、光量の減少に対して細胞内chl.a_2含量は指数的に増加し、現場における本群の弱光域での分布を支持した。炭素窒素などの細胞内元素含量と栄養塩消費との関係の解析や、蛍光抗体を用いた分布調査を行うために無菌株の確立を強く進めたが研究実施期間内に確立するに至らなかった。今後の課題である。
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