本研究では、シリコンにアンチモンを1原子層に局在してド-ピングを行うことを目的に、低温分子線エピタキシ-法で作成したデルタ・ド-ピングシリコンウェハ-を高分解能ラザフォード後方散乱法(RBS)で観察して、ド-ピングされたアンチモンのシリコン内の分布を測定した。試料は、超高真空槽内で清浄なシリコン(100)面上に、250℃で0.1ML程度のアンチモンを蒸着し、その上にシリコンを種々の温度で0.7〜8nmの厚さまでエピタキシャル成長させて作成した。得られたRBSスペクトルには、ド-ピング層のアンチモンと表面のアンチモンの2つのピークが見られた。ド-ピング層のアンチモンの深さ分布はシリコンの被覆層の成長温度が70℃において、0.5nm程度であることが判った。この値は、これまでSIMSによって観測されてきたド-ピング層の幅(2〜3nm)に比べると非常に小さく、これまで観測された最高の結果である。しかしながら、0.5nmは約4原子層に相当しており、残念ながら1原子層に局在した究極のデルタド-ピングを達成できてはいない。この原因は、スペクトルに見られる表面に存在するアンチモンと関係している。この表面のアンチモンは、シリコン被覆層の成長中に、表面偏析によって生じたものであることが、データの解析の結果分かった。この表面偏析速度を、表面のアンチモン濃度のシリコン被覆層厚さ依存から求めることができた。得られた表面偏析速度は400℃以上の高温における表面偏析速度の測定結果を外挿して求めた値に比べて数桁以上大きな値となった。また、表面偏析速度の温度依存を調べたところ、温度にあまり依存せず、その活性化エネルギーが0.1eV以下という異常に小さい値となった。
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