正常咬合者における咀嚼・嚥下時の舌運動、口唇圧、グミゼリーの咀嚼能力を評価し、乳歯列後期から成人に至るまでの加齢による変化を知り、舌運動や口唇圧など咀嚼機能時の口腔内動態が咀嚼能力とどのような関連があるかを検索することが本研究の目的である。本年度は、混合歯列期小児および成人における検討にとどまった。口唇圧は、個人間および個人内でも変動を示したが、小児より成人で口唇圧が大きく、また、嚥下時に最大圧を示した。舌運動については、超音波画像診断装置による観察を行い、その画像解析を試みたが、動きは複雑であり定量的分析を行うにはなお検討を要する。今回は、矢状断面の観察のみを行ったが、前額断面の観察も併せて行う必要があるかも知れない。しかし、この場合同時観察はできないので咀嚼・嚥下運動の再現性が課題となる。グミゼリーの咀嚼能力についての評価では、口唇圧同様に、成人の方が小児よりグミゼリーを一定回数咀嚼後の咬断片におけるゼラチン溶出量が多い傾向、すなわち咀嚼能力が大きい傾向が認められたが、個人間および個人内での変動が大きい。 以上、本年度の研究の中で、口唇圧、グミゼリーの咀嚼能力とも加齢に伴って大きくなり、咀嚼嚥下機能が成熟していくことが予測されたが、舌運動の解析は不十分で、これらとの関連性を論ずるには至らなかった。今後は、成熟の過程をより明らかにするために当初の計画通り乳歯列後期からのデータの収集が必要であるし、また、個々のケースにおける口唇圧-舌運動-咀嚼能力の関連性を詳細に検討していくことが必要となる。
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