研究概要 |
咀嚼は、ヒトを含めた哺乳動物が、エネルギー源、栄養素を外界の食物から摂取するための食行動の第1段階である。従来、この食物の物理的性状(硬さ、テクスチャーなど)に応じて咬合力がいかに調節されているかに関する報告は、多々見られたが、化学的性状を検知する味覚がいかに咀嚼運動に影響を及ぼしているかの報告は、ほとんどされて来なかった。本研究は、食物に混入された味物質の違いにより、咀嚼運動がどのように変化するのかを、ラットを用いた動物実験により行動学的、および、筋電図学的に明かにしようとしたものである。 食物に混入する味物質には、代表的な味物質である1.0M sucrose、 0.02M Na saccharin、0.2M Nacl、0.02M HCl、5×10^<-3>Mまたは1×10^<-3>M Quinine HClを用いた。 行動学的実験の結果、ラットが満腹までに要する時間は、高濃度Quinineにおいて他の溶液より長くなり、摂食中および摂食後にはgapingなどの忌避行動が顕著に観察された。また、摂食時間中の、実際に咀嚼運動を行っている時間が、他の溶液混入飼料摂食時に比べ、有意に減少した。 筋電図学的実験の結果,Quinine混合飼料摂食時における咀嚼筋のバースト放電が、他の溶液を混合した餌を与えた時よりも小さく、その周波数が高いことが明らかとなった。 これらの結果は、飼料中に含まれる味物質が、咀嚼筋活動を含むラットの摂食行動に影響を与える可能性を示唆しており、食物の化学的情報が、物理的情報と同様に、咀嚼運動に重大な影響を及ぼしていることが明らかになった。
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