咀嚼筋を支配する運動ニューロンには、α型のみでなくγ型が存在すると考えられるが、両運動ニューロンの生理学的および解剖学的な差異には不明な点が多く、顎運動の神経機構を理解する妨げとなっている。そこで、単一咬筋運動ニューロンの電気生理学的特性と形態学的特性との関連を再検討し、これを研究の進んでいる脊髄運動ニューロンと比較し、α型、γ型ニューロンを同定することが本研究の目的である。 平成7年度の研究では、この脊髄のα-運動ニューロンに近似した特性を持ったいくつかのニューロンと、ごく少数ではあるがγ-運動ニューロンに近似したニューロンが初めて同定された。このことは、咀嚼筋運動ニューロンが脊髄運動ニューロンに相当する神経機構を持ち得ることを示している。しかしながら、それら2種の典型的な脊髄運動ニューロンの中間的性質をもつニューロンもいくつかみつかり、咀嚼筋運動ニューロンは脊髄とは異なる、より複雑な神経機構によって支配されている可能性が示唆されたと考えられる。 このように咀嚼運動の神経機構は、脊髄よりもより複雑であり、このことが本研究遂行の困難さとなっている。本研究で我々が用いている『単一ニューロンからの、細胞細胞内記録法と細胞内にHRP法』は、これまで蓄積されてきた生理学的データと形態学的データを融合させ得る大変有用な方法であることは確かであるから、種々の困難を克服し、本研究は成就されねばならない。現在、機能を同定したニューロンの形態学的検索も進めているところであり、生理データとの比較検討の結果がおおいに期待される。
|