咀嚼筋を支配するαおよびγ運動ニューロンの生理学的および形態学的な差異には不明な点が多い。そこで、単一咬筋運動ニューロンの電気生理学的特性と形態学的特性との関連を2年間の研究で再検討し、これを脊髄運動ニューロンと比較し次の結果を得た。生理学的特性に関しては、1)脊髄運動ニューロンとは異なり、咬筋運動ニューロンでは伝導速度の分布が2峰性を示さず、伝導速度の差のみではα型とγ型が区別できない。2)筋紡錘からの単シナプス性EPSPを誘発出来ないニューロンが存在するが、それらは速い伝導速度を示した。3)皮膚感覚の入力によってIPSPが誘発されるニューロンが大半で、EPSPが誘発されるものは極めて少数であり、その多くは速い伝導速度を示した。以上より、脊髄に認められた電気生理学的特性の差異は咬筋運動ニューロンには該当しないことが、始めて解明された。一方、脊髄に認められる両型の運動ニューロンの形態学的差異も再検討した。その結果、脊髄と同様に、樹状突起の本数が少なく、分枝が乏しいニューロンが標識されたので、3次元的解析を試み、一次樹状突起長、樹状突起の総延長、総体積に差異があることが示された。この形態的特徴はγ型が咬筋運動ニューロンにも存在し、形態学的特徴を踏まえて生理学的特徴を再検討し直す必要があることを強く示唆している。そこで、生理学的特性を同定した筋紡錘からの一次求心線維と運動ニューロンとの関係に注目し、形態学的に検討した。これにより、運動ニューロンとのシナプス接合の様式に多様性があることが明らかとなり、これらの差異がα型、γ型との差異に関与している可能性が示唆された。以上の全研究により、咀嚼筋運動ニューロンのα型、γ型における生理解剖学的な相違の一端が始めて解明され、今後の咀嚼運動の神経機構の研究に寄与し得る貴重なデータが得られた。
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