初年度、終生歯牙の萌出しないop/opマウスで下顎骨内埋没歯の歯周組織、および歯根膜支配下歯槽神経の中枢投射部位、標識細胞数を正常動物と比較し、三叉神経中脳路核(Me5)、三叉神経節(TG)の標識細胞数の減少、また、三叉神経上核(Su5)、三叉神経吻側核(Sp5O)への一次求心性神経終末の減少を明らかにした。このことは、歯根膜の形成不全、三叉神経運動核(Mo5)のpremotor neuronへの入力の減少を意味しており、当然の結果として三叉神経運動核を形成する開口および閉口筋運動ニューロンへの影響、末梢効果器である閉口筋、開口筋への影響が考えられる。従って1996年度は粉末飼料で飼育する歯牙の萌出しない固体(op/op)および、固形飼料飼育と粉末飼料飼育群にわけた正常マウス(op/+)の3カ月齢の雄各5個体を用い、麻酔下で、閉口筋支配として咬筋神経、開口筋支配として顎舌骨筋神経を選びHRP法によりMo5、Me5、TGにおける標識細胞数の計測および三叉神経感覚核群への一次求心性神経終末をop/opと正常動物とで比較し、以下の結果を得た。op/opで観察された標識細胞数はMo5、TGにおいて正常動物に対し有意に減少していた。また咬筋の筋紡錘数に有意差はみられなかったが、咬筋の筋線維は萎縮し、筋線維径は有意に減少していた。 以上、歯周組織である歯根膜に、歯牙接触による触、圧または痛覚を受容する多くの感覚受容器が存在し、その情報が三叉神経節または三叉神経中脳路核ニューロンを経由して三叉神経上核、三叉神経運動核、三叉神経感覚核群に伝達され、咀嚼運動の調節に関与することが形態学的に裏付けられ、歯根膜受容器からの求心性入力が咀嚼運動の制御中枢および末梢効果器である咀嚼筋の恒常性維持に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
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