咀嚼器官の健全な発育と維持は、歯科医学の究極的目的であるといえる。口腔保健の重要性を考えるにあたり、噛むことの生理的意義、とくに、全身機能との関わりに関する新しい解釈と科学的基盤が求められている。咀嚼運動は、口腔内諸器官およびその受容器から起こる感覚入力系、ならびに、運動出力系から構成されており、中枢神経系を介して、全身機能に影響を与えていると考えられる。我々は、摂食行動調節における口腔内感覚の重要性の解明を脳内神経伝達物質という観点から試みてきた。さらに、咀嚼による感覚入力の変化が、全身の諸機能へ及ぼす影響について研究を重ねている。正常なWKA雄性ラットに、通常のペレット型固形飼料を与えた場合の、摂食や飲水行動およびゲージ内運動を、サーカディアンリズム測定装置内で、長期間にわたって観察し自動記録した。また、感覚入力が異なると考えられる液体飼料を与え、同様な観察記録を行い、摂食行動パターンの違いについて検討を行った。また、摂食行動調節に関与していると考えられている神経伝達物質の合成阻害剤を脳室内に投与した場合に、どのような行動変化が起こるかを同様に観察した。咀嚼と学習・記憶能の関連について明らかにするために、ラットの学習・記憶能が観察測定できる、8方向放射型迷路の観察システムおよび解析装置をセットアップし、過去に行われた実験についての追試実験を行いつつ、方法論の確立を行っている段階である。
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