研究概要 |
本研究では、顎内障(クローズドロック)を滑膜、軟骨、骨などの関節構成体の炎症性変化を伴う病態としてとらえ、滑液中に存在する炎症のメディエーターやプロテアーゼ活性を計測することにより、顎関節症の新しい診断基準を作製することを試みた。 1.平成7年度にはクローズドロックと関節内の炎症性変化との関連を究明するために、クローズドロック患者より採取した滑液中のタンパク濃度および炎症性サイトカインIL-1β,IL-6,IL-8)濃度を測定した。 その結果、クローズドロック患者における顎関節滑液中の一定タンパク量あたりのIL-1βは正常顎関節における値よりも有意に高いことがわかった。IL-6については両群において有意差はみとめらなかったが、クローズドロック患者が正常者よりも高い傾向にあった。さらには、正常者にはほとんど検出できなかったIL-8がクローズドロック患者では数例に検出された。また、クローズドロック患者のうち、関節構成体の骨変化が認められた群では、それがみられなかった群より有意にIL-1β,IL-6が高値を示した。 2.平成8年度には、滑液中のプロテアーゼ活性と顎関節の骨構成体の変化との関係を検討する目的で、ゼラチンを基質としたエンザイモグラムを行った。その結果、正常者(2例)とクローズドロック患者(7例)のすべてにおいて92kD,72kD,50kDの分子量の3つのバンドが検出された。骨変化を伴うクローズドロック患者の2例においてはストロメライシン(MMP3)と思われる50kDの分子量のバンド活性増強が認められた。 以上の結果より、クローズドロックの関節内病態は、炎症性変化(滑膜炎)を伴っていると考えられ、IL-1β,IL-6,さらにはMMP3は顎関節の微少環境下での炎症および骨変化の指標になるのではないかと推察された。
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