Wistar系雄ラットを用い、開口筋の顎二腹筋前腹、閉口筋の咬筋それぞれを支配する運動ニューロンのacetylcholinesterase(AChE)活性を定量的に測定し、成長、老化における両運動ニューロンのAChE活性の変化を調べた。非可逆的酵素阻害剤DFPを投与して一旦、既存のAChEを失活させ、その後細胞体内にだけ検出できる量の酵素を新しく合成させて、その活性を測定した。まずラットの顎二腹筋前腹及び咬筋にそれぞれ蛍光色素nuclear yellow、bisbenzimideを筋注し、支配ニューロンを逆行性に標識した。24時間後DFPを投与し、さらに3時間生存させた後、心灌流固定を施し、脳幹を摘出、凍結連続切片を作製、切片をAChE反応に供した。蛍光色素を含む細胞体について、細胞体内の470nmの吸光度を測定し、AChE活性値とした。細胞体の面積をもとにα運動ニューロンを同定、解析の対象とした。10週齢青年期のラットで顎二腹筋前腹運動ニューロンのAChE活性は咬筋運動ニューロンの有意に平均1.6倍高かった。生後5日目授乳期のラットのAChE活性は10週齢の半分程であったが、やはり顎二腹筋運動ニューロンの方が、咬筋運動ニューロンの1.2倍弱、活性が高かった。生後16日目で酵素活性は5日目と比べて大きくなっていた。運動ニューロン間の活性の比については、顎二腹筋前腹運動ニューロンの方が、咬筋運動ニューロンより1.2倍弱、高い活性を示し、この比は5日目と同じであった。生後1年のラットAChE活性は10週齢に比べて低下しており、両運動ニューロン間での活性の差は認められなかった。また10週齢青年期のラットでの細胞体面積と酵素活性との間の相関係数を求めたが相関は認められなかった。さらに10週齢ラットでcholine acetyltransferase(ChAT)活性も定量的に測定した。DFP処理していないラットの脳幹の切片を抗ChAT抗体とperoxidase-antiperoxidase抗体複合体とDABを用いたChAT免疫組織化学反応に供した。細胞体内の450nmの吸光度をChAT活性値とした。やはり顎二腹筋前腹運動ニューロンのほうが有意に高い酵素活性を示し、咬筋運動ニューロンの1.4倍の活性があった。
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