視覚誘導性顎運動課題遂行中のサルの一次運動野および運動前野腹側部から単一ニューロン活動を記録した。実験動物にはニホンザル2頭を用いた。サルに記録用シリンダーを取り付けた後、モンキーチェア-に座らせ頭部を固定した。サルの眼前に置いたモニターに視覚手がかりとなる緑および赤丸を提示した。両視覚刺激はそれぞれ開口、閉口を指示するものであり、サルはこの手がかりに応じて開閉口運動を行った。この時のニューロン活動をエルジロイ電極にて記録した。 一次運動野からは開口または閉口運動の開始に同期してニューロン活動を変化させる運動関連ニューロンを記録した。開口時と閉口時のニューロン活動は全て相反しており、一次運動野は咀嚼筋の収縮および弛緩に対して、直接または間接的に関与していると考えられた。一方、運動前野のニューロンは視覚手がかりの提示に同期して一過性の反応を示す視覚関連ニューロンが記録できた。このことは運動前野が顎運動を発現するのに必要な視覚情報を運動命令に変換する過程に関与していることを示唆した。さらに開閉口状態を維持し、次の顎運動を指示する視覚手がかりが提示されるまでの間、ニューロン活動を持続的に増加させる準備関連ニューロンも記録した。このことから運動前野が顎運動の準備に関連していることが明らかとなった。一次運動野の運動関連ニューロンには閉口時と開口時において類似した活動変化を呈するものがあった。運動前野の運動関連ニューロンは筋の収縮および弛緩に関与すると同時に、視覚刺激による顎運動発現に関与していると推察できた。 本研究により、一次運動野は顎運動の発現に関与しており、高次運動連合野である運動前野は視覚情報の顎運動命令への変換、顎運動の準備、発現、遂行に関与していると考えられた。
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