生後10日〜10週齢のウイスター系ラットの頬部に存在するjuxtaoral organの応答特性の生後発達を検索し、静的応答発現の閾値および静的感度の発達と、いくつかの形態的変化の関連を検討した結果、以下の成績を得た。 Juxtaoral organの静的応答発現の閾値は、生後10日から3週にかけて急激に低下し、生後5週でほぼ成熟個体のものと同様になった。一方、静的感度は生後2〜4週で急上昇し、その後著しい変化はみられなかった。静的応答発現の閾値が低下する時期は、軸構造周囲のコラーゲン線維や弾性線維が発達する時期と一致することから、受容器自体の物性の変化が閾値の変化と関係するものと推察された。静的感度が上昇する生後2〜4週には内嚢と外嚢が分化し、両嚢の間隙に広い嚢腔が発達した。また同時期に、軸構造周囲のaxon terminalが膨大し、内包するmitochondriaやneurofilamentsの密度が増した。しかし、感覚単位の支配領野の大きさには著しい変化はみられなかった。 免疫組織化学的検索から、生後2週以降のjuxtaoral organの嚢腔にはヒアルロン酸が存在し、その量は生長とともに増加することが明らかになった。外嚢を切除し、嚢腔のヒアルロン酸を酵素で除去すると、juxtaoral organの静的応答が消失した。外嚢を部分的に切除し、外液にhyaluronidase(0.1mg/ml)を滴下し、嚢腔のヒアルロン酸を除去すると、20〜30分後に静的応答が消失した。Locke液で洗浄後、外液を6mM-KC1を含むLocke液に置換すると静的応答が出現した。これらのことから、ヒアルロン酸によるaxon terminalの周囲のイオン組成の変化が、juxtaoral organの静的応答の成熟に寄与する一要因であることが推察された。
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