我々は、覚醒ネコ大脳皮質の第一次体性感覚野(SI)、運動野(MC:M、P、C)と咀嚼野(MA)で顎顔面口腔領域に末梢受容野を持つ咀嚼運動関連ニューロン(MRN)の性質を調べてきた。円滑な咀嚼運動は咀嚼運動時SIでモニターされた感覚性のフィードバック情報により実行されていると推察した。まずSIの口周囲部と舌投射部位を0.1%カイニン酸で破壊した口周囲部投射部位(PLネコ)と舌投射部位破壊ネコ(TLネコ)を作成した。PLネコは咀嚼運動開始の遅れ、食物摂取時に餌が口より飛び出す、食物摂取時間、咀嚼時間、嚥下回数が破壊後経日的に徐々に延長あるいは増加した。TLネコは破壊直後より食物摂取時間、咀嚼時間、嚥下回数が急速に延長や増加を示した。次にPLとTLネコで破壊の次の日より運動野(MC:M、P、C)でMRNsを記録し、正常ネコで記録したMRNs活動様式と受容野特性を比較した。PLネコではM、PとCともに口周囲部に受容野を持つニューロンは1/3以下に減少した。TLネコでは舌に受容野を持つニューロンはP領野のみ記録できなかった。またMRNs活動様式は、PLネコで正常ネコでは記録できなかったPre-movementのPB(食物摂取時一過性にニューロン活動が減弱する)がMやP領野で記録され、MC各領野でPost-movementのRB(咀嚼のリズムに一致してニューロン活動を変化する)が正常ネコの50%以下となった。TLネコではMやP領野で咀嚼筋や舌筋に先行してニューロン活動を変化するPre-movementのTBが記録できなかった。 以上より、咀嚼運動時、SI口周囲部投射部位はCやM領野のMRNs活動に影響を与え口周囲部の緊張維持を、SI舌投射部位はP領域のMRNs活動に影響を与え咀嚼過程に伴う適切な運動の"切り替え"を行なう情報を送っていることが示唆された。
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