ウサギが顎関節症発生メカニズムの解明を目的とした関節頭並びに関節円板の運動解析に適するか、否かを検討した結果、以下の点が明らかになった。 皮膚咀嚼野電気刺激による下顎運動パタンの安定性:森本らの報告するように、下顎運動パタンは皮質咀嚼野の刺激部位に依存して、外側部刺激ではグラインドタイプの、内側部刺激ではチョッパータイプの運動が誘起され、我々も必要に応じて、各タイプの運動をかなり安定的に誘発できるようになった。このことを利用すれば、麻酔下での関節頭並びに関節円板の運動解析を行うことは十分可能であり、チョッパータイプの運動しか引き起こせないネコ等よりははるかにウサギは有用な実験動物である。 関節円板のビデオ画像記録の可能性:上関節腔の前上壁を形成している側頭骨関節結節部の2X3mm程度の範囲を除去して、関節円板の動きを民生用ビデオカメラにて撮影したが、時間分解能、シャッタースピードとも不十分であったため、定量的な解析にまでは至らなかった。しかし、関節円板のビデオ撮影に必要な視野を確保するために行う側頭骨関節結節部の除去が、関節円板並びに関節頭の運動に与える影響は、関節円板が関節頭に線維性結合している関節頭内外側両極を損傷さえしなければ、かなり小さいのではないかと言う印象を持っており、関節円板のビデオ画像記録による運動解析は十分可能であると思われる。 関節頭並びに切歯点の運動の3次元的記録必要性:関節頭並びに切歯点の運動記録には、下顎前歯に固定源を設けたファイスボ-タイプのアタッチメントを使用し、その関節頭並びに切歯点相当部位にLEDを取り付け、半導体光位置検出装置を用いて行った。関節頭の運動はヒトと比べて回転運動成分が小さく、前後運動成分が多いという特徴が認められ、ウサギで得られたデーターをヒトに当てはめる上で、留意しなければならない点である。また、技術的問題としてファイスボ-タイプのアタッチメントの振動が、皮質咀爵野外側部刺激で誘発されるグラインドタイプの運動時に特にひどく、定量的解析に支障をきたす程であった。側頭骨関節結節部の除去が、関節円板並びに関節頭の運動に与える影響を検索するためにも、骨除去前後の関節頭の運動を必要な精度でもって解析できることが重要なポイントとなる。
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