本研究は、脊椎動物の松果体の役割を系統発生学的に、神経科学的側面から解明することを目的としたものである。松果体は、脊椎動物の間脳の背面から突出した微小器官で、光受容細胞・神経細胞・分泌細胞などから構成されている。特に、下等脊椎動物では、光受容細胞がよく発達していて、環境の明暗を直接松果体で受容している。私達は、光受容性松果体の特によく発達したカワヤツメを用いて行動リズムの解析を行い、リズムの時計が松果体自体の中にあることを示唆した。当研究の目的は、リズムの時計が松果体自体の中にあることと、その時計が光により位相調節される仕組みを示すことである。この目的のため、脊椎動物の最も単純な系であるカワヤツメを用いて、松果体の機能としての時計機能の存在とその光感受性の解析を進めている。 7年度には、松果体自体にリズムの振動体があるかどうかをまず検討し、その結果、連続暗の条件下でも、連続して5サイクル以上のメラトニンの分泌リズムが観察され、松果体自体にリズムの振動体があることが確かめられた。 8年度には、引き続き、この振動体が時計としての性質を持っているかどうかどうか明らかにするため、光に対する応答性を示すかどうかを検討した。具体的には、明暗サイクルを3、6、12時間、位相前進あるいは位相後退させた時の、メラトニンリズムの位相変化、などを調べた。現在までに6時間、明暗周期を位相前進させた時と6時間位相後退させた時に、メラトニンの分泌リズムも位相前進及び位相後退している結果が得られ、松果体自体のなかにある振動体は、培養条件下でも光に応答する性質があることを示す実験結果が得られ始めている。また、ELISA法を用いたメラトニンの新たな定量法の開発にも着手した。
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