本研究は海馬損傷ラットの摂食行動および空腹感の知覚を調べることを通じて、空腹感の知覚と摂食行動との関係を調べることを目的とした。 被験体としてWistar系雄アルビノラット12匹を用いた。第1実験では、オペラント箱の引込式餌皿内に鼻突込み行動を行うことによって餌ペレット(45mg)を獲得することをラットに学習させ、1時間、12時間、23時間絶食の3つの条件で、摂食量の変化を調べた。オペラント箱は今回導入した防音箱内に設置した。各条件3回ずつ9日間(1日50分)の訓練の後、6匹のラットに海馬采-脳弓損傷を施し、回復の後再び9日間の摂食テストを行った。摂食テストの結果、統制ラットも海馬損傷ラットも、絶食時間が長くなるほど多くの餌を食べた。このことは、海馬損傷が、空腹水準に応じた摂食量の機制に本質的には影響しないことを示す。 第2実験では、同じラットにDavidson & Jarrard(1993)と同様の手続きで、空腹状態を、電撃を信号する弁別刺激として用いる訓練を施した。0時間あるいは24時間の絶食水準のどちらかでラットに電撃を与え、他方の水準では与えなかった。消去テストにおいて、統制ラットは絶食に由来する空腹水準の弁別が可能であり、電撃が与えられた空腹水準で、与えられなかった空腹水準よりも多くの凍結反応を示した。一方、海馬損傷ラットは空腹感の知覚に障害を示し、電撃が与えられた空腹水準でも与えられなかった空腹水準でも同程度の凍結反応を示した。 以上の結果は、空腹感の知覚は摂食行動を規定する直接の原因ではなく、両者は並列的な関係にあることを示唆している。
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