今年度の研究においては、ネルソンの「低レベル均衡の罠」モデルの階層論的な展開を数理社会学的なアプローチと計量社会学的なアプローチの両面から試みた。数理社会学的なアプローチとしては、投資関数(あるいは、貯蔵関数)の形状と不平等状態との関連性を探ることを目的とした。その結果、以下の点が明らかとなった。(1)投資関数が下に凸の関数形を有するとき、完全平等な収入分布がもっとも投資量を減少させ「非効率」的である。(2)投資関数が上に凸の場合、完全平等な収入分布がもっとも投資量を増加させ「効率」的である。(3)投資関数が線形である場合、収入分布と投資量の間は独立である。以上から、資源配分の「平等」と生産の「効率」は、同時に満たされる場合、相反する場合、独立な場合の3つのケースが投資関数の形状によって識別される。また特に、収入にパレート分布を仮定した場合には、「完全平等状態」のみならず、一般的に、ジニ指数によって示される「平等度」と「投資量」の間に単調関係を見いだすことができる。ただし、このようなジニ指数と投資量との間の単調関係は、すべての収入分布に対してみられるものではないことも明らかにされた(たとえばジブラ分布の場合、SPSSなどを用いたシミュレションでも明らかである)。以上は、数理的な解析によって導出されたが、投資関数がS字型をしている場合に関しても同様のモデル構成が可能なことが研究会で指摘され、この点をふくめた構成が以後の課題となっている。 また、上記の数理モデルの結論を計量社会学的にタ検討する目的で、ジニ指数あるいは収入分布に関するデータおよび、経済発展に関するデータの収集を企図した。これらのデータに関するARIMAモデルなどによる時系列解析や、構造モデルを用いた横断的な解析が今後の実証分析における課題である。
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