研究概要 |
今年度は,これまで本研究代表者のフィールドワークによって蓄積されてきた言語資料が整理され,3冊の図書及び1編の論文として刊行されたことが,まず最も大きな成果として挙げられる。特に,図書のうち,2冊のオロチ語,ウルチャ語の言語資料については,これまで日本国内で発表されたこれらの言語の資料はほとんど皆無であり,その価値は極めて高い。本資料の整理,作成にあたっては,近隣の諸言語の資料との比較・参照をその基とし,その際には,今回の科研の出張により,北海道大学,東京外国語大学等の資料の利用が十分に行えたことが大きな役割を果たした。また,論文の「ヘジェン語の系統的位置」は,これまで長いことナーナイ語の一方言と考えられてきたヘジェン語の正確な位置づけを行ったものである。これによって,ツングース諸語全体の歴史的な形成に光があてられた。日本におけるアイヌ語の例を持ち出すまでもなく,消滅の危機にある少数民族の言語及び文化の記録,記述研究は,絶対的な急務である。日本語の歴史や系統を明らかにするためにも,日本周辺の少数民族言語の記述の進展は,極めて重要な意味を持っている。
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