入手した理論言語学・一般言語学関係の図書・論文によって、従来、提案されてきた動詞繰り上げ分析、語彙分析、二重構造分析、LF接辞移動分析やモジュラー語形成論などの理論的枠組みを検討し、入手した日本語・朝鮮語・トルコ語・モンゴル語・ツングース諸語などに関する参考書によって、まずは記述されている範囲内でそれぞれの言語の事実を確認した。また、朝鮮語・トルコ語・モンゴル語・ツングース諸語など、本研究代表者の直感が効かない言語に関しては、入念なインフォーマント調査を行い、その収集されたデータは、学生の補助を得て、パソコンを用いて整理した。 このような基礎作業に基づいて、各言語における使役構文や複合動詞構文、また日本語と朝鮮語では「〜を[動名詞]中に……」(例:英語を勉強中に……)といった現象、名詞化接尾辞、照応現象などに着目し、形態論と統語論の相互作用について考察した。その際、インターネット上の電子メールを用いたり、必要に応じて直接出向いたりして、他の所属期間の研究者と絶えず情報交換や議論を行った。 その結果、次のようなことなどを明らかにした。統語的な語形成が日本語では比較的活発に行われるのに対して、朝鮮語ではほとんど行われない。朝鮮語の語形成は、もっぱら語彙的なものである。また、膠着言語といった同じ範疇に属すると考えられる言語でも、語形成が行われる場所については程度の差がある。統語的な語形成が行われるかについて、トルコ語やモンゴル語は、比較的活発に行われる日本語と、ほとんど行われない朝鮮語の間に位置づけられると考えられる。そして、膠着言語の傾向がさらに進み、統語的な語形成が活発に行われる、抱合言語・輯合言語・多総合的言語などと呼ばれる言語に、日本語が最も近いと言える。
|