今年度は、ヒドロキシルイオン及び水の存在量をあらかじめ赤外吸収スペクトルによって調査済みである石英ガラス、石英ならびにかんらん石について、筑波大学加速器センターのタンデム型ヴァンデグラフ加速器によってプロトンの照射を行った。プロトンの照射エネルギーは6から12MeVで、照射量は10^<16>から10^<17>プロトン程度である。 その結果、石英ガラスについては照射後も、照射前と変わらずヒドロキシルイオンによる赤外吸収はブロードなバンドであることがわかった。それに対して石英決勝では、照射前はシャープな吸収がスプリットした状態で観測され、照射後は石英ガラスに近いブロードな吸収が観測されるようになった。この現象は、照射前にはヒドロキシルイオンがいくつかのサイトに分かれて石英結晶中で存在しており、プロトンの照射によって結晶構造が乱されてヒドロキシルイオンの存在状態が平均化されて、赤外吸収がブロードになったことに起因すると考えられる。対照的にガラス状態の石英ではプロトンの照射前後によってヒドロキシルイオン周囲の環境はほとんど変化していないことが示唆される。現在は、低温でのプロトン照射を行い、この現象が液体窒素温度でも再現されるかを調査中である。 今後は、砂漠あるいは惑星間塵の微小結晶を対象に顕微赤外分光によってヒドロキシルイオンの存在状態を考察する予定である。
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