研究概要 |
クメール建築の木造上部架構法に関する研究としては、フランスのデュマルセイ(Dumarcay,J.)による「クメールの小屋組と瓦」(“CHARPENTES ET TUILS KHMERES"1973)が代表的で、それによればアンコール遺跡では多くの平瓦、丸瓦、軒先瓦が出土しており、木造上部架構を有したクメール建築が、いわゆる本瓦葺きであったことを指摘している。今年度実際に発掘調査を実施する機会を得たアンコール・トムのプラサート・ス-プラという遺跡でも、同様に3種の瓦が多数出土した。しかし、その製造方法にはバラツキが認められ、例えば軟質で厚・薄、硬質で厚・薄、さらに釉薬有・無など多種に分類できる。さらに同質でもサイズが様々で、完全に同一建造物に用いられていたと推定可能な瓦を相当数抽出することはできなかった。従って、瓦自体の形状などに関する情報は入手できたが、屋根にどのようなピッチで葺かれていたかを復原することは現時点では困難といえる。 架構自体の復原は、木という材質ゆえにオリジナルの部材が全く残存していないため、石造建造物の壁面に残る横架材支承痕跡と、クメール建築の寸法計画の考察を通して復原するしか方法はない。今年度は特に、クメールの碑文中に認められる度量衡に関する記述をピックアップし、クメールの寸法体系がインドに由来する人体尺に類する可能性が高いことを確認した。 今後は、実際のクメール遺構に残る横架材支承痕跡についてさらに多くの実測資料を入手するための現地調査実施を最優先し、同時に周辺他国の伝統的木造上部架構法に関する文献資料の入手・読解を行いたい。
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