半導体、酸化物超伝導体の一方向凝固過程における固液界面は、多くの場合、ファセットからなる鋸歯状の形態を示し、ファセット界面の凹部にはセル境界が形成される。このような結晶の高品質化には界面の制御が鍵となるところから、ファセット的凝固過程の解明には多くの関心が払われてきた。ファセットの成長機構を調べるために、まず表面カイネティクス過冷却度と成長速度との関係を求めることが必須である。従来、凝固潜熱の効果を無視できる為に表面過冷却度はバルク過冷却度に一致するとして仮定し議論されてきたが、我々の研究成果によりこの仮定そのものを再検討する必要性が生じている。 まず、純サリチル酸フェニルの一方向凝固における熱輸送過程の数値シミュレーションの結果より次のことが明らかになった。1)ファセット界面を有する物質の一方向凝固においては凝固潜熱が成長界面前方の液相温度勾配を減少させる、2)坩堝壁の存在が凝固潜熱の界面からの除去を促進し、凝固速度が速く試料厚さ/坩堝壁厚さの比が大きい程、界面前方で復熱領域が発生しやすい。これらの結果は、二波長光干渉計による液相中の温度分布計測及び試料中に挿入した微細熱電対による測定の結果とほぼ一致しており、表面過冷却度はバルク過冷却度と一致しないと考えるのが妥当であると結論づけられた。 さらに、チモール-oーターフェニル2元系合金を試料とした場合での二波長光干渉計による温度・濃度同時測定の結果により、ブレークダウンの必要条件を界面の異方性を考慮しない形態不安定化のクライテリオン(M-S理論)で検討を試みた。その結果、従来の凝固潜熱の効果を無視した解析に比べよりM-S理論で予言される条件に近い条件でブレークダウンするものの、そのデータのばらつきは大きく、ブレークダウンの発現は界面の異方性並びに結晶内の欠陥分布にも依存することが示された。
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