タンパク質のポリペプチド鎖は、立体構造を形成するフォールディング過程の途中に、モルテングロビュール構造と呼ばれる中間的な変性状態を経由すると言われる。この共通したモルテングロビュール構造を規定するためのモチーフを熱ショックタンパク質(GroEL、BiP)を用いて見出すことを試みた。まず、熱ショックタンパク質とモルテングロビュール構造の相互作用を調べた。卵白アルブミン、血清アルブミンおよびリゾチームは、生化学的性質や発生起源を異にしているにも関わらず、加熱変性によりモルテングロビュール構造をとることを明らかにした。熱変性した卵白アルブミンを急冷することにより誤って折り畳まれた単量体の変性分子は、分子表面に疎水性クラスターを形成しているモルテングロビュール構造をとっており、GroELと結合した。GroELと結合に関与すると推測される疎水性クラスターを構成するペプチド配列をモノクローナル抗体を用いて同定した。次に、BiPの基質に対するATP加水分解活性を指標に、卵白アルブミンの一次構造上においてBiPが結合するペプチドを検索した。その結果、BiPが結合するペプチド配列を数個決定できたが、それらは疎水性アミノ酸残基に比較的富んでおり、その中には先に同定した疎水性領域も含まれていた。卵白アルブミンの一次構造上におけるBiP結合配列の分布は、ハイドロパシー指数から予測される疎水性領域の分布とある程度一致することが判明した。 以上、本研究を通して、タンパク質の立体構造形成を支配するモチーフを検索するためには、熱ショックタンパク質が有用な分子プローブとなり得ること、およびタンパク質のフォールディングには一次構造上の疎水性アミノ酸残基の分布が重要であるという知見が新たに得られた。現在、二次構造のトポロジーが異なる数種のタンパク質においてもBiPや他の熱ショックタンパク質であるHsc70の結合部位を検索中である。
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