研究概要 |
本研究では、水産学での画像技術の「統合化」の可能性を模索した。「特殊画像技術(内視鏡検査、超音波断層法、コンピュータ・グラフィクス)のマルチメディア的展開」ついては、以下の3段階で研究を行なった。 1)特殊画像技術による学術映像資料の取得法の開発、2)映像技術によるバイオメカニクスの研究、3)社会に実存する映像技術とのリンク、学術映像のマルチメディア的展開 1)および2)については、1,2)-a:外洋での調査航海(東大海洋研白鳳丸KH-95-2調査航海)においてsoft-bodied animal頭足類、翼足類の運動の研究を行なった。ハイスピードビデオ、内視鏡、超音波断層法および放送用映像機器を用いて、外洋性生物の学術映像資料を取得した。特に、超音波断層法による外套腔内の水流の可視化により、ツツイカ類の換水機構、腔内の水流経路を解明した。永年議論されていた、外套腔内のdead waterの存在を否定する発見となった。また、漏斗弁の可動性も証明した。1,2)-b:北海道大学水産学部桜井研究室にて、内視鏡によるスルメイカ外套内部の観察を行なった。ツツイカ類の生時の鰓や呼吸系器官の形状、運動が明らかになった。1)-c:水産業や海洋生物展示施設での画像機器の利用可能性の調査を下関市内魚市場、海中公園で行なった。1)-d:CGは、剛体のウミガメの甲の周囲の水流の数値流体実験を行なった。ウミガメの形は円柱などの単純な幾何学的形状に較べ、カルマン渦の発生を抑制するなどの、流体力学的な効果があることが明らかとなった。 3)については、学術映像の電子出版を見通した実践による技術的/社会的/制度的問題点の抽出、現在と将来の利用形態の調査を行なった。その実験として、動物に関する教育用CD-ROMの制作や、NHK衛生放送局に海洋生物のドキュメンタリー番組制作を提案し、実行した(「水の砂漠・生き物航海記」90分)。映像コンテンツ制作と「科学研究」はマルチメディア時代には不可分である。学術映像の社会システム的困難、特に自然物の著作権や国公立研究機関の知的所有権についての制度自体が存在しない問題が明らかとなった。 なお、本研究は水産学関連学会での発表・公表のみならず、工学・産業など他分野からの関心を得た(土木学会「システムの最適化に関するシンポジウム」での招待講演など)。
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