研究目的:神経芽細胞腫(Neuroblastoma;NB)は小児固形腫瘍中最も頻度が高く、予後不良の悪性腫瘍である。NBの予後決定因子としてN-myc遺伝子が知られており、N-myc遺伝子増幅過剰発現を示すNBは極めて予後が悪いとされている。本研究では、NBの発症機序としてN-mycの持続発現が神経成長因子受容体(NGFR)の発現を抑制し、結果として神経細胞がNGF非依存性の状態、すなわち分化能を失った自律増殖状態を取ることがNB発生の重要なステップとなるとの仮説を立て、これを証明することを目的に実験を行った。 結果:ラットのNB株B104にヒトNGFR cDNAであるtrkAをトランスフェクションし、細胞表面上にtrkAを持続発現するトランスフェクタントを樹立した。ついで得られたトランスフェクタント内にヒトN-myc遺伝子を導入した場合としない場合につき、N-mycの過剰発現がNGF/NGFRカスケードによる未分化神経細胞の分化誘導にいかなる影響を及ぼすか検討した。内因性のN-myc遺伝子の過剰発現はNGF/NGFRカスケードによる未分化神経細胞の分化誘導を阻害しないが、持続的かつ過剰発現するN-mycは未分化神経細胞におけるNGF/NGFRカスケードによる分化誘導を阻害することが確認された。本研究において、NBにおけるin vitroでのN-mycとNGF/NGFRカスケードの関係が明らかとなった。今後はラットのゲノムcDNAライブラリーからNGF-receptorの5′上流域をクローニングし、得られたクローンを用いてin vivoでの両者の関係をトランスジェニック・マウス作成を目指して検討する計画である。
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