研究概要 |
本研究の目的は化学的糖鎖合成の基本であるグリコシル化反応において、より高い立体選択性をえることにある。糖供与体の活性化によって発生する反応中間体であると考えられるオキソカルベニウムイオンはカチオンであるから、電子供与性の有機化合物(リガンド)を反応系内に加えれば、オキソカルベニウムイオンとリガンドとの間に何らかの相互作用を期待することができる。その結果、糖受容体のオキソカルベニウムイオンへの求電子的な攻撃する方向をコントロールしうるのではないかと予測した。 同時に、オキソカルベニウムイオンに相互作用しうる化合物は、この中間体のカチオニックな性質を相殺して反応性を低下させてしまう恐れもある。 そこで本年度は3価のリンを脱離基として有する糖供与体、すなわち2,3,4,6-テトラベンジルグルコースのジエチルフォスファイト(ジエチル亜リン酸エステル)とピリジン-2-メタノールとの間のグリコシル化反応を例として添加剤の検討を行った。 添加剤無しの条件下、2,3,4,6-テトラベンジルグルコースのジエチルフォスファイト(α:β=ca7:3)とピリジン-2-メタノールの塩化メチレン溶液に、-78℃下TMSOTfを滴下、撹拌することにより、約60%の収率で目的物である(2-ピリジルメチル)-2,3,4,6-テトラベンジルグルコシドをα:β=40:60で得た。同様の反応をプロピオニトリル中で行うと、選択性はα:β=70:30となり若干ながらα体が増加した。ニトリル基がオキソカルベニウムイオンに相互作用しているためと考えられる。 そこで塩化メチレンを溶媒とする反応系に1当量の1,1,3,3-テトラメチル尿素を加えた。この化合物はHMPAなどと同様、リチウムなどの金属カチオンに配位すると考えられる化合物である。上記の条件と同様の反応の結果、収率は極端に低下してしまった。1,1,3,3-テトラメチル尿素はオキソカルベニウムイオンに相互作用してその活性を著しく低下させてしまうことがわかった。
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