すでに1995年10月に刊行された「人文地理」47巻5号の論文で展望したように、欧米の経済地理学においては、近年特にレギュラシオン理論に対する関心が高まり、日本で発達した物流の方式であるジャスト イン タイム(以下、JITと略記)がフレキシブルな生産システムであり、ポストフォーデイズムへの移行を示すものではないかとして関心が集まっている。しかし、レギュラシオン理論の経済地理学については、【encircled1】技術水準の発展段階に主としてもとづいている調整の様式といった時期区分が、具体的な経済活動の展開を考える際に果して妥当な考え方であるのか、【encircled2】物質的な生産中心であってサービス業の発展が考慮されていない、【encircled3】企業内部のJITといったミクロなスケールから、新国際分業モデルといったグローバルな現象に至るまで、その論理の展開において、扱われる空間のスケールに整合性が欠けているのではないかという批判がある。 研究者は、このような論議についても、十分に注意を払いながら、JITが系列化や二重構造といった日本独自の経済のあり方をもとに成立していること、そのために、必ずしもフレキシブルな生産システムとは言えないということを主張した。またJITの実施が必ずしも、下請企業の組立企業周辺への集積を意味するのではなく、輸送通信手段の発達した今日では、技術水準の高い部品あるいは、労働集約性の高い部品はそれぞれ遠方から購入されることもありうる。 一方、1950年代以降のわが国の物流政策の変遷を展望したところ、高度経済成長期には専用大量輸送の促進がその中心課題であったのが、第一次オイルショックを契機として情報化とJITへの対応がその中心課題となるように変化したことが明らかとなった。しかしJITは、情報化が即時的に処理可能であるのに対して、末端の配送がきわめて労働集約的でなければならないという矛盾をかかえている。今日ではJITによる物流そのものがコスト高の一因として見直しが始められている。 以上の内容については、「わが国における産業構造の転換と物流の変化--運輸・物流政策の変遷との関係を中心として--」として、編集委員会の審査が終わり、経済地理学年報42巻2号に掲載される予定である。 また高速道路を利用した各種工業製品等の貨物流動が太平洋ベルト地帯ならびに三大都市圏とその周辺に集中している状況については、「わが国の高速道路における交通流動」として、季刊地理学48巻2号に掲載される予定である。
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