本研究では、統一後のドイツ基礎学校における「郷土及び事象教授」を、特に理科教育の立場から考察し、理科教育上において持つ意義、中等理科との関連、及び中等理科の基礎としての教育的機能などを、事象教授の導入、並びに「郷土及び事象教授」への新展開に伴う改革を中心として明らかにした。 事象教授から「郷土及び事象教授」への新展開により、これまで後の教科教授の基礎となる科学の基本的概念の習得が目指されていたのに対して、一変してその学習内容が子どもの現実生活に求められ、教科を越えた、総合的な授業構成が実現できるように意図されている。また、「郷土」が授業の出発点であり学習内容そのものになっているが、専門科学的な事象分析に基づいて授業が構成されたり、子どもの体験や感情が重視され、子どもの生活や経験が学習の中に強く導入されたりしている。理科的領域においては、中等理科の学習内容に直接関係している基礎もあるが、それよりはむしろ、自然に関する学習-理科の学習において初等から中等に発展していく一つのステップとして不可欠な要件としての基礎が取り扱われていると言えよう。専門科学的には後退した内容になっているが、「子ども」「郷土」「社会」といった視点が事象教授における授業構成の要素として十分に考慮されてきているのである。 こうして、現在の「郷土及び事象教授」は、中等理科の学習内容に直接関連した基礎となる知識、概念、原理、法則を教えようとしていた1970年代に開発された事象教授を批判克服し、学習内容を子どもの生活現実に求め、子どもの認識過程に即した科学的な総合学習へと発展しているように思われる。しかしながら、初等段階における理科的領域の学習が、体系的・科学主義的・内容主義的な中等理科にどのように効果的に発展的に結びついていくのか、今でもなお模索されており、今後解決すべき問題として残されている。
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