本年度は、教室を歴史性、文化性を持った実践のコミュニティととらえ、エスノグラフィックな研究を実践することを試みた。調査は以下の二点、(a)認知的リソース調査、(b)小学生のメンバーシップ調査に分かれる。(a)認知的リソース(資源)調査:文化的活動は、そのコミュニティに独自の認知的リソースの構成により維持されている。この調査では、教室における認知スタイルを決定する教室の認知的リソース(道具・空間・人的配置)を特定し、その利用、参照のされ方の分析を試みた。具体的には、小学校の授業場面の観察、ビデオ記録によるデータを、リソース利用にどのような制限がみられるかという観点から分析した。今年度は、まず詳細なビデオ分析を可能にするために、ビデオをデジタル化しコンピュータ上で一定の場面を繰り返し参照できる環境を整えた。リソース利用の制限が、認知スタイルにどう影響するかの分析については、資料の収集にとどまり、具体的な分析基準の確立については次年度以降の課題とする。(b)教室メンバーシップ(成員資格)調査:今年度の調査では、小学校児童が、如何にして学校という文化に参入し、学校的なスタイルを身につけて行くかの分析を試みた。具体的には算数科授業のビデオ記録から、小学生という社会的アイデンティティに言及した語りを抽出し、教室メンバーシップが如何に付与されていくかを分析した。その結果、グレイドや単元の進行状態を越えた技能を使わない、という教師児童間の了解事項の存在が示唆された。本研究に関連する一連の道具研究では、ア-ティファクト導入の組織への影響はよく研究されているが、利用者の組織への参加意識である「アイデンティティ」の問題、およびアイデンティティと認知スタイルの関係は十分検討されていない。これは、今年度準備が整ったコンピュータ上でのビデオ分析の手法を利用して、次年度以降の課題とする。
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