アルツハイマー病βアミロイド蛋白の神経毒性のメカニズムを探り、βアミロイド前駆体蛋白質(APP)の生理的役割を探るために、初代培養大脳皮質・海馬神経細胞系におけるAPPの発現変化をWestern blotting法を用いて検討した。その結果、培養大脳皮質、海馬神経細胞いずれにおいても培養細胞中におけるAPPの産生ならびに培養液中へのsecreted APPの分泌が観察された。これは、培養細胞間でシナプスが形成される培養後約1週間の時期で顕著に観察された。さらに、実験的に切断などの方法で培養細胞に損傷を加えることによってAPPの産生は増大した。抗APP抗体を用いる免疫組織化学によって、神経細胞及びアストロサイトが強染されているのが観察された。また、βアミロイド蛋白を視床下部由来の神経細胞株(GT1-7)に投与し、patch-clamp法によってその効果を電気生理学的に観察したところ、カチオン選択的なイオンチャネルが形成されていることが判明した。形成された50〜500pSにおよぶ巨大なイオンチャネルは、人工細胞膜上でβアミロイド蛋白によって形成されたイオンチャネルと同様の性質を持ち、生体内濃度の亜鉛イオンによって抑制された。 これらの結果から、βアミロイド蛋白が膜に取り込まれてイオンチャネルを形成し、Ca^<2+>イオンなどのイオンバランス異常を引き起こし最終的に神経細胞死につながるメカニズムが考えられる。さらに、神経細胞死が引き起こされるとAPPの産生が促進されβアミロイド蛋白の分泌が増大することによって、神経細胞死の悪循環が生じ、最終的にアルツハイマー病が発症する仮説が考えられる。
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