(1)光透過性のフィルム状加熱素子とレーザードップラー血流計を組み合わせることにより、熱刺激によって生じる痛みの閾値測定と同時に熱刺激中心部及び周囲の非熱刺激部の血流変化の検出を可能とする接触加熱型痛覚測定システムを構築した。(2)前腕内側部および下肢脛骨内側部において台形状の温度刺激(温度上昇率5℃/sec、ピーク温度10sec保持)に対する灼熱痛の発生と末梢血流変化を測定した。(3)非熱刺激部の血流の変化は熱刺激(加熱素子)の中心から10mmの位置で安定して観察できた。キシロカインを用いた実験によって、熱刺激部を局所麻酔した場合には熱刺激部周囲の血流増加は生じないことを確認した。この結果から、非熱刺激部の血流増加は熱刺激による直接的な反応ではなく、軸索反射を介して生じる軸索反射性の血管拡張反応であることが示唆された。(4)軸索反射性の血流増加(血管拡張)の閾値温度は43.3〜44.7℃であり、熱刺激中心における熱刺激直接性の血管拡張閾値(41.0〜42.2℃)に比べ有意に高く(p<0.05)、灼熱痛閾値(43.8〜44.8℃)とほぼ一致した。これらの閾値温度の比較から、計測した軸索反射性の血管拡張は、灼熱痛と同じ侵害受容器の神経軸策(C線維)の末梢の分岐で生じていると推測される。従って、末梢血流の測定と痛覚測定の組み合わせは、弁別の難しい灼熱痛の閾値を測定するための客観的指標を与える有力な武器となると考えられる。(5)今回構築したシステムを反復熱刺激に対する刺痛閾値の変化の測定にも応用を試みた。刺痛と軸索反射性の血管拡張は直接は関係しないが、末梢血流の計測により他の末梢神経の状態や自律神経支配の状態を知る客観的な情報が得られるので、刺痛の機構を考察するために極めて有用であることが示された。
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