本研究は、おもに以下の3つの実績を挙げている。第一に、情報理論に基づき、瞬目の発生パターンを定量化した。併せて、反応パターンを変化させる要因について検討した。研究の結果、心的負荷時には、過渡的に変化する心理状態に応じて瞬目の起こり方がランダムになることが明らかとなった。一方、安静時には眼球に対する物理的刺激のみによって瞬目が起きるため、現在の反応が過去の反応に従属して起きる度合いが増加することが明らかとなった。従来の瞬目研究のほとんどが頻度変化を測度としていたのに対して、本研究がマルコフ性の見地から測度を導入したことにより、新しい方面から生体情報を獲得することに成功している。 第二に、瞬目の反応パターンに内在する時間的フラクタル性を、一次元写像と累積度数分布とを用いて検討した。研究の結果、ランダムに見える瞬目の起こり方には独特の規則性が内在しており、基本的に3ないし4周期ながら時間軸を変えながら反応が起こるといった時間的フラクタル性が認められた。従来の研究ではランダムと見なされていた生体現象も、一次元写像、理論的ポアソン分布との適合性検定、累積度数分布などを用いることにより、反応に潜む時間変化構造を明らかにすることができた。 第三に、瞬目発生機序の数理モデルを構築し、モデルへの実測データの当てはめにより、発生パターンの変化を、心理要因や覚醒水準、あるいは物理環境を表すパラメータで記述した。発生源内部の瞬目必要電位が初期値と閾値を持っており、電位が一次元的にブラウン運動しながら閹値に到達すると反応が起きると考え、初期値からのずれに応じて引き戻す力が働く確率微分方程式で表現した。すると、覚醒水準低下時の瞬目の群発化は、閾値の上昇として説明することが可能であった。この成果により、例えば自動車運転時の居眠り防止の生理的指標などとして瞬目を用いる際の定量的評価と理論的洞察を可能とした。
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