研究課題/領域番号 |
07CE2004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野依 良治 名古屋大学, 大学院・理学研究科, 教授 (50022554)
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研究分担者 |
北村 雅人 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (50169885)
関 一彦 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (80124220)
巽 和行 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 教授 (10155096)
近藤 忠雄 名古屋大学, 化学測定機器センター, 助教授 (70093028)
大内 幸雄 名古屋大学, 大学院理学研究科, 助教授 (60194081)
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キーワード | 分子不斉 / 分子触媒 / 分子物性 / 生物機能 / 分子認識 / 不斉増幅現象 / 機能性材料 / 花色発現機構 |
研究概要 |
「分子不斉の基礎と応用に関する研究」に関する活動は、平成11年度まで第1年次に整備した分子不斉研究ユニットの体制下、研究リーダーの確立した分子触媒化学を基軸に、(1)分子触媒研究、(2)分子物性研究、(3)生物機能研究、の3課題について複合的に研究を展開してきた。本組織の研究能力と業績は所期のとおり国際的に高い水準にあり、当初の研究計画はすべて順調に遂行している。分子触媒研究に関しては、反応を酸化、還元、炭素-炭素結合形成、官能基変換の四つに分類し、この枠組みの中で、省資源、省エネルギーの環境調和型物質変換法の確立に取り組み、多くの成果を得てきた。エポキシ化反応やオレフィン類の酸化的開裂法、オレフィン類やケトン類の触媒的不斉水素化法、キラルな有機亜鉛化合物を用いるアルデヒド類の高エナンチオ選択的な触媒的不斉アルキル化法、多元系金属触媒を用いる不飽和カルボニル化合物への有機金属化合物の高選択的1,4付加反応などの画期的な物質変換法を発見した。水素化や水素移動反応においては、これまでに類例を見ない高触媒回転率を達成するとともに、各種有用生理活性物質の新規供給法を確立することができた。光学活性ホスホン酸やスルホン酸類の一般合成法も実現され、生命科学研究分野で注目されている非カルボン酸系のアミノ酸の供給が可能となった。相関移動触媒を用いる環境調和型の実用的酸化法を確立し、ナイロンの原料となるアジピン酸の新規供給法も確立した。 平成8年度から着手した分子触媒機構解明研究においては、アルキル化反応において観測される不斉増幅現象の発現機構の徹底解明をとおして、不斉触媒分子の自己・非自己認識の概念を確立するとともに、ジアステレオ的関係にある触媒分子間の相互作用の重要性も提唱した。物理・化学・生物機能発現の根幹ともいえる分子認識の科学に対する理解を深めることができた。光学活性ルテニウム錯体を用いる不斉水素化機構に関しても重要な情報を得、長年の懸案の課題の一つに終止符が打たれようとしている。さらに、金属酵素活性部位モデル構築を目指して、高度に集積した鉄硫黄クラスターやモリブデン-鉄硫黄クラスターなどの遷移金属カルコゲニド化合物の合成と機能解明を行い、分子認識機構を電子構造レベルで理解するための基礎を構築することができた。脱硫黄反応や脱窒素反応を高効率で行う環境浄化触媒開発に関する基礎研究
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も推進した。物性研究においては、次世代技術につながる「分子素子」の創製や多彩な有機化合物の電子的・光学的機能の開発を目指し、有機固体、基板上の超薄膜、吸着状態、液晶、分子クラスター、さらにデンドリマー集合体などの新しい分子集合体における分子配向やそのダイナミックス、電子構造についての研究を推し進めた。高出力レーザーを用いた非線形分光法の一つである赤外-可視和周波混合法を不斉有機分子の薄膜構造解析に適用することによって、従来法では検出不可能であった極微量の不斉分子の円偏光二色性の検出に成功した。表面や界面における不斉現象の研究に有効な手段であることを示した。光電子分光法による界面研究を半導体基板上の分子に進め、多彩な分子素子構築のための技術の基礎を固めた。軟X線吸収分光装置においても飛躍的に精度を向上することができた。さらに超高真空にて清浄金属表面に有機物質を堆積した厚い有機膜の電子構造をケルビンプローブ法によって調査した結果、従来の考えとは異なり、バンドの曲がりは小さいことを明らかにした。有機物性化学、表面科学、電子工学の境界領域を切り開き、有機電子デバイスの基礎分野に大きな波及効果をもたらした。 生物機能研究では、生物活性発現の根源に迫るべく、小分子と巨大な生体高分子の分子認識、機能発現について分子構造レベルでの研究を行った。花色変異のpH特性や色素配糖体の構造との関係を調査し、会合形成に必須な部分構造を追究した。非天然型L糖を組み入れた人工色素の超分子形成研究も推進した。発芽にかかわるペプチド金属錯体を取り上げ、弱い相互作用の熱力学的、構造的研究を推進するとともに、全合成研究を基盤に海洋軟体動物由来の抗腫瘍性物質の活性発現機構の解明研究も推し進めることができた。植物種子発芽にかかわる金属錯体と酵素間や生体高分子アクチンと抗腫瘍性物質との相互作用機構の完全解明に着実に近づいている。光反応性を有する非天然アミノ酸を部位特異的に導入した前駆体タンパク質を調製し、これを用いて光架橋反応により前駆体とミトコンドリア、葉緑体の膜透過装置との相互作用のマッピングにも成功した。ミトコンドリア移行シグナルとその受容体の立体構造をNMRにより決定した。ミトコンドリア移行シグナルがミトコンドリア表層で受容体により認識される仕組みの分子機構が明らかになった。前年度より従来路線に生命科学色を加えた研究へと移行すべく、関連研究者を充実する方向で積極的に数名の人員交代を行った。その成果が着実に現れている。 隠す
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