研究概要 |
外国人特別研究員のTapio Simula氏と共同で,前年度に引き続いてボーズアインシュタイン(BEC)凝縮系の理論研究を遂行した.今年度に於いては,量子渦の集団運動について重点的に研究した.従来の理論的,実験的研究において渦の回転面内の集団モードであるTkachenko波について調べられているので,我々は渦糸方向への3次元的な運動モードであるKelvin波を研究した.念頭においている希薄中性原子集団のBEC状態はGross-Pitaevskii(GP)方程式で記述できることが分っている.更にその集団モードもBogoliubov-de Gennes(BdG)方程式を解くことで知ることが可能である.問題は3次元的に閉じ込められたBECを数値計算の上でどのようにコーディングするかという点である.我々はこの問題をクラスター化した計算機群を用意して,OMP-MPI並列プログラミングを書き下し克服することに成功した.このことによってGP方程式の時間発展を直接数値解析することにも成功し,Kelvin波の生成と崩壊過程を詳細に理論的に明らかにした.更にはこのGP方程式での結果をBdG方程式の方法によって再現し,両者の結果の正しさを裏付けた.得られた知見の主なものを以下に記す.1)Kelvin波を生成するためにはレーザー光を渦糸の芯の方向から照射する.その光の波長を生成したいKelvin波の波長に一致させ,またレーザーを充分に集光させ渦芯程度にする.このレーザー照射によって光の運動を渦芯の運動に効果的に移行させることが可能なことを上記の数値計算で実証した.2)これとは別のKelvin波の生成方法も見出した.即ち回転軸とは垂直面の面内に4重極モードを生成させる.この4重極モードは逆方向に伝搬する2つのKelvin波に崩壊することをGP方程式を用いたシミレーションによって明らかにした.これは角運動量とエネルギーの保存した過程であり,実験的にも以前フランスのENSグループによってRb原子の気体でのBECによって観測されていた現象に対応する.今後は面内モードであるTkachenkoモードと縦方向に伝搬するKelvinモードとが結合した3次元的な錬成波を考察していく予定である.
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