本年度は、東北大学の超高分解能光電子分光装置を用いて、マンガン酸化物におけるフェルミ準位近傍の電子状態を明らかにするために、以下に示すような装置改良を行った。 i)励起光フィルターの改良 現行の装置に設置されている金属薄膜極端紫外光フィルターの実効的な光透過率を向上するための改良を行った。これにより、測定試料の最大の表面劣化原因である励起光源からの測定層への不純ガス流入を防ぎ、試料周辺の真空度を一桁近く向上させた。装置の性能を評価するために、多くの実験データが蓄積されているビスマス系銅酸化物高温超伝導体を用いて、試料表面の安定性のテストを行い、試料表面の安定度(時間)が4倍以上に延びた事を確認した。これにより、実験の統計精度が飛躍的に向上し、異常物性に関わる微細電子構造の定量的議論を可能とした。今後より高い透過率、高い真空度を得るため、光源系の調整や差動排気系の更なる改良を計画している。 ii)試料回転自由度の拡張 これまで手動で行っていた試料の角度及び位置調整機構にステッピングモーターを用いた電動制御系を導入した。これにより位置精度100um、角度精度0.01°の試料調整が可能となった。今後、電子分析器制御プログラムとの同期を行い、自動2次元フェルミ面マッピングシステムを構築し、測定効率の飛躍的向上を計る。 装置開発と並行して、開発した装置を用いて遷移金属酸化物について実験を行った。ハーフメタルの可能性が指摘されている一次元バナジウム酸化物NaV_2O_4について高分解能角度分解光電子分光実験を行い、そのバンド構造とフェルミ面を決定した。その結果、フェルミ準位近傍のバンド分散において一次元的な異方性がある事を見出した(New Journal of Physics投稿中)。今後、スピン分解光電子分光実験などを行い、スピン偏極度の異方性、温度依存性を決定し、ハーフメタルの可能性の検証を行う予定である。
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