近年、熱や光、圧力等の外部刺激により磁気特性、電気伝導性、色などの様々な物性の変化を自由自在にスイッチングできる新しい物質や新しい技術の開発を目指した研究が盛んに行われている。我々の研究室では、三次元CN架橋構造を有するプルシアンブルーとその類似体に着目して研究を行ない、これまでにHigh-Tc分子磁性体、光応答性分子磁性体の開発に成功し報告してきた。昨年は、光応答性三核モリブデン銅錯体を合成しその物性を詳細に検討した。本年度は金シアノ錯体と鉄からなる新規二次元架橋錯体[Fe(bipe)(Au(CN)_2)_2MeOH]について研究を行った。この錯体はKAu(CN)_2とFe(ClO_4)_2、bis(4-pyridyl)-ethaneを混合し静置することによって合成した。結晶構造の解析からこの物質は非常に珍しいポリロタキサン構造をとっていることが分かった。鉄は二価高スピン状態であり、金はオーロフィリック相互作用で三核のクラスターを形成していた。東邦大学グループとの共同で金のメスバウアースペクトルを測定したところKAu(CN)_2と異なるスペクトルが得られた。しかし、これまでに報告されている関連する文献の結果と同様に、その違いは大きなものではなかった。また、東京大学グループとの共同で圧力効果について検討したところ、スピン転移は誘起できなかったものの磁化の変化が観測された。現在、量子化学計算を用いてこの物質の電子状態の解明を進めている。また、つい最近カテナン構造を有する新規FeAu金属錯体の合成にも成功した。今回開発したこれらの物質は将来の高密度光記録材料への応用が期待できる。
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