研究概要 |
イオン液体は不揮発性の溶媒であり、従来の揮発性有機溶媒の代替溶媒として期待されている。最近では、イオン液体を酵素反応の溶媒として利用する試みが活発に行われている。しかしながら、生体分子である酵素やタンパク質はほとんどのイオン液体には溶解しない。この問題に対し、本研究では疎水性のイオン液体中にマイクロエマルションの水滴を形成し、酵素などの生体分子をイオン液体に可溶化することを試みた。その結果、ヘキサノールを補助溶媒としてアニオン性界面活性剤AOTをイオン液体に溶解し、ここに少量の水を添加することでAOTの自己集合が形成された透明な水/イオン液体マイクロエマルションの構築に初めて成功した(ChemPhysChem,vol.9,pp.689,2008)。この新規分子集合系は相挙動観測、界面張力測定、動的光散乱法により評価した。界面活性剤AOTとイオン液体のアルキル鎖どうしの疎水性相互作用、およびAOTの親水基とマイクロエマルション内水相の相互作用によって安定な分子集合体を形成したと推察される。さらに、通常のイオン液体および水飽和イオン液体には酵素は可溶化しなかったが、イオン液体マイクロエマルション中には様々な酵素・タンパク質を可溶化することが可能であった(Green Chem,(in press),2008)。また、可溶化した脂質分解酵素リパーゼの蛍光分析により、内水相中の酵素はバルク水相と同様の環境下にあることを明らかにした。さらに、イオン液体マイクロエマルション中に存在するリパーゼは従来の有機溶媒中に形成されたマイクロエマルションよりも高い酵素活性を発現した。この活性向上の理由としては(1)内水相のミクロ環境の変化(蛍光分析により確認)、(2)基質などの反応に関わる化合物の水/イオン液体間の分配、(3)補助溶媒である1-ヘキサノールの存在、が考えられる。
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