逆説的ではあるが、光合成生物にとっての最大のストレス源は太陽光である。このため、真核藻類や高等植物は強光ストレスに対処するため、防御用のカロテノイドを利用した集光アンテナを発達させてきた。キサントフィルサイクルは、余分な励起エネルギーが壊れやすい反応中心に流れ込むのを防ぐためにビオラキサンチンをアンテラキサンチン、そしてゼアキサンチンへと変換する。陸上植物の非光化学的蛍光消光(NPQ)には、このキサントフィルサイクルが必要だが、それは緑藻類の中でも普遍的にあてはまるわけではない。今年度は、原始緑藻オストレオコッカスを用い、キサントフィルサイクルについて調べた。このプラシノ藻におけるキサントフィルの変換は、それが非常に弱いクラミドモナスと比較すれば、はるかに陸上植物のものに近かった。強光の下のオストレオコッカスでは、ビオラキサンチンの変換はすばやく行われたが、その約半分は陸上植物のようなゼアキサンチンではなく、アンテラキサンチンであった。他のキサントフィルを有する種と同様、オストレオコッカスのキサントフィルもまた、光合成複合体に弱く結合しており、タンパク質複合体の精製過程において容易にはずれる。分光学的な解析から、このアンテラキサンチンへの変換がNPQ量と比例していることがわかった。可変する光を受ける環境で生育するオストレオコッカスは、キサントフィルのプールの大きさそのものを調整する。このプールの大きさが、強光下での光合成複合体の安定性もたらす。今回明らかになった、1段階キサントフィルサイクルはオストレオコッカスの大きな光防御能力を可能としている。この能力がプラシノ藻が亜熱帯海域での優占種であることを可能としていると考えられる。
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