本研究では、消化管に高度に発現する新規受容体型チロシンホスファターゼSAP-1の生理的、病態的意義を明らかにするために、SAP-1遺伝子破壊(KO)マウスを用いたin vitroおよびin vivoでの解析を試みた。前年度の解析をさらに進め、SAP-1が消化管上皮細胞特異的な発現様式を示すこと、また、腸管腫瘍自然発症マウスモデルであるApe minマウスとSAP-1 KOマウスとの交配実験から、SAP-1が消化管における腫瘍形成の制御に関与することを明らかにした。さらに、腸管における主要な疾患の一つである腸炎へのSAP-1の関与につき解析を試みた。腸炎のマウスモデルの作製に広く使用される硫酸デキストラン(DSS)を用いSAP-1 KOマウスおよび野生型マウスに腸炎を誘導したところ、その発症と重症度がSAP-1 KOマウスにおいて抑制される傾向が認められた。一方、炎症性腸疾患のマウスモデルとして知られているIL-10 KOマウスとSAP-1 KOマウスとの交配を行い、IL-10、SAP-1二重遺伝子破壊(DKO)マウスを作製し解析を行ったところ、IL-10 KOマウスに比べIL-10、SAP-1 DKOマウスにおいて腸炎の発症度と重要度が強まることを見出した。これらの実験結果から、SAP-1は腸炎の発症やその病態の制御に関与し、腸炎の発症機序の違いにより相反する作用を示すことが示唆された。現在、SAP-1によるこれら腸炎発症制御の分子機構の解析を進めている。
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