研究概要 |
ハロゲンとの混合原子価錯体を成す金属錯体一次元鎖などの電荷移動金属錯体からなる擬一次元鎖の電気伝導性と非線形光学(NLO)特性について電子状態理論の立場から予測することを目的としている。金属だけからなるクラスターに対してElongation法を適用し計算精度の検証を行った結果、原子間距離について交替のない、すなわちバンドギャップの極めて小さな系はSCFの収束が困難であるが、適当に構造を歪ませることにより金属にも適用可能であることを確認しているため、ポルフィリン系巨大一次元鎖に対してElongation法を適用し、さらに(超)分極率を計算し、エネルギーの高次微分にもかかわらず、十分な精度で計算可能であることも確認した。一次元鎖ではあるが、各ユニットが互いにツイストさせて螺旋を巻いた非平面系に対しては良好な結果を与えるが、完全平面にすると分子間の結合部が複数の部位で化学結合を起こした結果、鎖全体にπ非局在化が顕著になることから計算精度が落ちることが分かった。またポルフィリン環の中心にMg,Zn,Niなどが存在する場合と存在しない場合の両方に対して計算したところ、中心に金属がない場合と同様に高精度で計算可能であることを確認し、中心金属とNLO特性の関係について一定の知見を得ることができた。さらにエネルギーバンド構造の鎖依存性に対して詳細に解析を行なうため、当研究室で開発している、オリゴマー計算からバンド構造を抽出する手法を適用し、それぞれの金属を含むポルフィリン系一次元鎖のバンド構造を描き、1分子あるいは2分子の分子軌道の位相とバンド構造の関係、さらにバンドギャップとNLO特性の関係を詳細に解析した。これらは十分論文発表に値する内容であるが、上記記載の、完全平面の場合だけ精度が落ちる(局在化のクオリティーが落ちる)という問題があるため、このことを解決するための方法として、局在化の部分を改良するよう現在検討中である。一方、このような金属を含む巨大分子系に対して伸長末端のみだけで構造最適化を効率よく行いながらNLO特性が得られるようにするために現在プログラム開発を行っているところである。
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