本課題期間では、生体内で重要な情報伝達を担うシアル酸の酵素-化学複合合成を指向し、初年度は期間が短いこともありその基盤となるいくつかの反応について検討した。シアル酸の酵素合成法の原料となるN-アセチルマンノサミンの合成を検討、入手容易なトリアセチルグルカールを出発原料とし、Rojasの方法を参考に、窒素原子を分子内環化で導入した。本合成は、環化前駆体の短工程合成、合成途上1-位に導入する置換基の合理的選択が重要である。まず、酵素を用いた位置選択的加水分解により、化学法では多数の工程が必要となる部位の水酸基を遊離とし、そこにカルバミル基を導入した。環化時、従来全く顧みられることがなかったt-ブチルアルコールを求核剤として積極的に活用し、環化の立体制御の大幅向上、および、最終段階で脱保護する際、シアル酸合成に大敵であるエピメリ化の完全排除を達成した。最終的にN-アセチルマンノサミンを全5工程、収率42%で合成した。引き続き、特定の位置の水酸基をアリル基として保護した類縁体へ向かって、化学的変換を検討中である。
|