研究概要 |
ネムリュスリカ幼虫が乾燥過程で発現する遺伝子のESTデータベースをもとに、乾燥ストレスに関わる20個の遺伝子をクローニンングした。その主な内訳は、分子シャペロン(hsp27,p26,hsp60,hsp70,hsc70,hsp90)、抗酸化因子(SOD,catalase,glutathione peroxidase)、DNA修復酵素(photolyase,Rad23,Rad50,pms)、そしてアポトーシス関連因子(survivin,aif,AIP)などである。これらの遺伝子の発現パターンを乾燥ストレスおよび放射線ストレスを与えた後に定量的PCRで解析を行った。その結果、乾燥ストレスで発現誘導された多くの遺伝子が放射線照射後にも発現されていた(例:DNA修復酵素のRad23,pms2、抗酸化因子のMn-,Zn-,Cu-SOD,カタラーゼなど)。 放射線の照射によって生じる活性酸素がタンパク質の酸化をもたらすものと予想し、ネムリュスリカ幼虫にHe^4イオンビームとγ-線を照射後、ウェスタンプロットでタンパク質のカルボエル化の程度を解析したところ、どちらの処理区も乾燥ストレスの時ほど顕著なカルボエル化は認められなかった。今後,ジニトロフェニルヒドラジン法などの他の方法を用いてのカルボニル化の定量も試みる予定である。 放射線感受性ヤモンユスリカ幼虫とネムリユスリカ幼虫にヘリウムイオンビーム(70,100,480Gy)を照射し、コメットアッセイ法を用いてDNAの損傷と修復について解析を行ったところ、照射48時間後の損傷及び修復程度に両者で顕著な差は認められなかった。照射96時間後はネムリユスリカの修復能がわずかだが有意に高かった。ネムリユスリカが特異的にDNA修復の能力に優れているわけではないことを示す結果となった。 2007年6月にネムリユスリカ乾燥幼虫が国際宇宙ステーション(ISS)に運ばれ現在、宇宙空間に直接暴露する実験(BIORISK)を行っている。1年3ヶ月間暴露されたサンプルが2008年10月に地球に帰還した。そのサンプルを現在解析中である。
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