研究概要 |
水圏植物の生産性に影響を与える要因のひとつに水中の物質移動(Mass Transport)がある。物質移動は、栄養塩の濃度、水流および水圏植物の形状によって変化すると考えられるが、水圏植物の生理生態に与える影響とその規模については十分に把握されていない。貧栄養環境である黒潮水系の亜熱帯域では、栄養塩を効率よく取り込む環境が水圏植物にとって不可欠である。一方で、水圏植物の形状や群落の構造そのものも流動や物質移動を変化させ、栄養塩等を取り込みやすい環境へと変化させている可能性が考えられる。これらのことから、熱帯性有用海産植物の栄養塩輸送に対する海水流動環境の栄養について研究をおこなった。 熱帯性食用及びカラゲナン海藻である紅藻トゲキリンサイEucheuma serraをモデル植物として、流動環境下における栄養塩吸収試験をおこなった。海藻周辺の流動特性は、海水をウラニン液で染色し、デジタルビデオカメラで観察した。トゲキリンサイのキャノピー内とキャノピー外の物質移動の特性は6mmの歯科用超硬石膏球を用いて測定した。 本研究の結果、海藻のキャノピー内はキャノピー外の56%の物質移動速度であるこが明らかになった。また、栄養塩吸収の際の窒素源である硝酸とアンモニウムについて、それぞれの吸収特性も明らかにした。その結果、トゲキリンサイは硝酸の50倍のアンモニウムを吸収することが明らかになった。さらに、物質移動モデルの分析の結果、硝酸やアンモニウム濃度が500μmol L^<-1>と流速11.cm s^<-1>の場合,硝酸の供給量は十分であることが明らかになったが、アンモニウムは50%の吸収速度しか満たすことができなかった。
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