研究概要 |
亜高山帯から高山帯にかけて広く分布する蘚苔類であるシモフリゴケ,タチハイゴケ,イワダレゴケをターゲットに選び,生育環境の違いに対する蘇苔類の成長応答を現地調査ならびに室内実験で計測した. 現地調査は,道南の駒ヶ岳,札幌近郊の無意根山・恵庭岳,道東の雄阿寒岳を中心に行い,標高・生育環境・気象環境と蘚苔類の成長の関連性を解析した.標高変化に対する蘚苔類の成長応答は山域により大きく異なり,周囲の植生や積雪量,土壌環境により強い影響を受けていることが示された.また,成長に伴う分枝様式に変異が見られ,単軸分枝(monopodial branching)から仮軸分枝(sympodial branching)への変化が生じている集団も確認された.このような分枝形態の変化は,生育地の光環境や土壌環境に対する適応的反応と考えられ,非常に興味深い現象である.現在,詳細な成長解析と蛍光光合成活性ならびに窒素含有量の計測も行っており,生理学的な側面から成長応答について解析を試みている. 室内実験では,人工気象装置を用いて,様々な温度環境における成長速度と生産量の地域変異を調べた.同じ環境で生育させても,個体群間で明瞭な成長応答の違いが見られ,成長特性に関する遺伝的な分化が生じている可能性が示された.また,得られた実験結果は,蘇苔類の生産性を知る上で貴重な知見であると考えられる. 以上得られた研究成果は,生理特性の解析結果と合わせて詳細な解析を行い,論文としてまとめていく予定であるる.
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