反応拡散系に現れる時間空間パターンの機構解明に向けて、モデリング、シミュレーションおよび解析を相補的に用いた方法論である現象数理学をこれまで展開してきた。具体的には、(1)微少重力環境でのすす燃焼に現れるパターンが非線形非平衡下での自己組織化パターンであることを現象数理学的方法論から示唆することができた。更に、数値シミュレーションによって多様に出現する時空間パターンが外部から供給する酸素濃度、供給速度にどのように依存するかという定性的な性質を考察することができた。(2)3変数反応拡散系の研究はまだ充分ではない。ここでは1活性因子-2抑制因子の相互作用を記述する3変数反応拡散系を取り上げ、そこに現れる時空間パターンをシミュレーション解析と特異極限解析を相補的に用いることから考察した。更に、数値シミュレーションからでは2変数系では観察できない新しい時空間パターンが出現することが見つけられた。(3)医学の問題から、角質層を通過する溶質輸送機構を反応拡散モデルから考察した。この成果はヨーロッパ数理・理論生物学会議のポスターセッションで発表される予定である。(4)非線形非平衡下に現れる運動の一例として、樟脳円板の運動を取り上げ、容器の水面上での運動をモデルから考察した。ここでは、円板の半径が小さいときには、円板の持つ円対称性が支配的にあり、円板は停止するが、円板の半径が大きくなると、その対称性が破れ、円板は動き出すことが、モデル方程式の解の「対称性破れ」(分岐現象)から説明できることが示された。
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