カルボカチオンと求核剤との求核反応は有機合成反応において非常に重要な反応のひとつである。一般に陽極置換反応では、電解酸化により生じたカルボカチオンが不安定であるため反応系中に求核剤を共存させる必要がある。しかしながら、求核剤の酸化電位は反応基質のそれよりも概して低いため、しばしば目的とする反応が進行しないことが問題となっている。 一方、これまでの研究において、固体担持試薬は電気化学的に安定であり固体担持試薬と電極との間で活性点分離が成立することを見出している。そこで、固体担持試薬と電極間の活性点分離に着目し、求核剤を固体に固定化することにより求核剤の陽極での酸化を抑制し、求核剤よりも酸化電位の高い基質の陽極置換反応を一段階で行うことを着想した。本研究では、求核剤としてシアン化物イオンを選定し、カルバメート類をはじめとする種々の有機化合物の電解シアノ化反応について検討を行った。 まず、均一系シアノ化剤であるテトラブチルアンモニウムシアニド(Bu_4NCN)を含む溶液および不均一系シアノ化剤である固体担持テトラブチルアンモニウムシアニド[Amberlite(CN)]を含む溶液のサイクリックボルタンメトリーを行った。その結果、シアン化物イオンは固体に固定化することにより電解酸化が抑制されることを確認した。 次に、Amberlite(CN)と電極との活性点分離の概念に基づき、シアン化物イオンよりも酸化電位の高い基質の電解シアノ化を行ったところ、Bu_4NCNを用いたときに比べ、高収率および高電流効率で目的のシアノ化体を得ることに成功した。 以上より、固体担持テトラブチルアンモニウムシアニドと電極との活性点分離の概念に基づく電解シアノ化反応システムの開発に成功した。
|